【大日本印刷】アートテック開発秘話~建物の資産価値を上げる~ kubota

アルミが原板の超軽量かつカスタマイズ性に優れた内・外装材

 株式会社トラスの広報担当です。
 この度広報部は、建材検索サービス「truss」に掲載していただいている建材メーカー各社の素敵な商品を、取材形式でピックアップしていく企画を展開していくことになりました。
 第二弾は【大日本印刷株式会社】さんです!

建物内・外装材、鉄道車両内装などに用いられる化粧金属板を製造しているメーカー大日本印刷(DNP)より、軽量なアルミニウムを原板としたDNP内・外用装焼付印刷アルミパネル『アートテック』がカスタマイズ性に優れている!というお話を伺い、トラス広報部はその商品についてインタビューさせていただきました。

このDNP内・外装用焼付印刷アルミパネル『アートテック』は、国内外で、すでに多くの実績があります。
インタビューに答えてくださったのは、生活空間事業部 営業の石塚氏、技術の三宅氏、デザイナーの加藤氏です。

生活空間事業部 石塚さん、加藤さん

DNPエリオ東京工場 左から、関口さん、高橋さん、三宅さん、久島さん、海田さん

ーはじめに、『アートテック』の建材としてのカテゴリを教えていただけますか?

【石塚】ビルなど建物の外壁に使える外装材ですね。壁面パネル、内装向けにも使っていただける化粧パネルとなります。建物の外装内装向けとして販売しております。

ー発想によっては、内装向けとして天井材としても使えそうですね。

【石塚】まさにその通りで、外装の壁面パネルから軒天、幕板と、外部と統一したデザインとして、天井等の内装にも使えますね。

ーすでに施工実績の多い『アートテック』ですが、発売開始はいつ頃だったんでしょうか?

【石塚】厳密に発売開始日というものはなく、もともと98年に、大日本印刷の本社ビルのエントランスにある大きい丸柱、そこに使用したのが最初です。その翌年99年に上海の万都ビルという55階建て高層ビルの外壁に使われました。

大日本印刷本社 エントランス部 98年施工

55階オフィスビル Maxdo Center(中国・上海)

【石塚】こちらの万都ビル、1階から4階までの外装は本物の御影石を使っていまして、軽量化のために5階から55階まで御影石を印刷したアートテックを使っています。
離れて見ると1階から4階、5階から55階までの壁面すべて同じように見えますよね。このように外装材の軽量化を目的に作り始めたのが最初です。
商品としてしっかり製造を始めたのは、それ以降、この二物件の外装材が過酷な状況にも耐えうるのに問題がないということで、2007年たまプラーザのテラスゲートプラザの外壁パネルに使われ始めまして、そこから注力的に外装材として販売しています。
そういった経緯で、98年、99年にまず先行採用されて、2007年に商品として発売を開始しました。

ー結構発売から時間のたっている製品だということに驚きです!Webページも最新っぽいですね

【石塚】そうですね。ここ数年で販促ツールを考えたりWebページも作ったりと、都度都度刷新していますので新しい製品と思われるのかなと。

高輪ゲートウェイ駅の外装材として使われている『アートテック』

ー『アートテック』開発にあたり、なぜアルミを原板として使うことになったんでしょうか?

【石塚】大日本印刷では、三つの金属基材に印刷することが可能です。「鋼板」「ステンレス」そして「アルミ」の三つです。鋼板にダイレクトに印刷したものは「エリオ鋼板」といって、鋼製の玄関ドアなどに使われています。ホテル、マンションや戸建て住宅などで柄がついている玄関ドアは、エリオ鋼板であるものが多いです。ステンレスの方は耐食性という特徴を活かした玄関ドアなどを作っています。
そして、アルミにダイレクトに印刷したものを『アートテック』として商品展開しています。
アルミを使うということで『アートテック』という名前にしているんですが、錆に強く、軽量というところがアルミを使うメリットです。
この軽量という面で、鉄道車両向けにもアートテックを採用いただいております。

cygames(佐賀)の外装材として使われている『アートテック』

ー『アートテック』の魅力とは?

【石塚】印刷会社が作り出す製品、なので印刷にはかなり自信があるんです。デザインに関しては設計者さんやデザイナーさんと可能な限りとことん話し合って提案します。
他社さんのように、カタログの中から決まったものを選ぶというより、我々は、デザイナーさんと、どういうデザインが欲しいのか、デザイナーとしてどういったものが欲しいのか、このシチュエーションでは何がどう欲しいのかと、そういったことをご相談しつつご提案させていただくというところが強いです。カスタマイズ性っていうのが魅力です
カスタマイズ性に優れているので、例えばお客様が幅1000mm×2000mmのものを100平米分だけほしい、といった場合、我々は50枚から印刷することが可能です。他社さんですと、一気に数百枚作ってコストを安くしていきますが、そういう意味では材料に無駄がありません。
お客様の欲しいデザインを、カスタマイズして一枚一枚作り出すというところですね。「とにかく数千平米欲しい」という場合は大量生産の方がいいけれども、お客様が求めているもので、デザイン的に付加価値があるものを創り上げる!というのが我々の仕事です。

【三宅】製造部門としては、お客様のイメージと用途に合わせて製造しているというところです。
外装となると耐候性を有するフッ素の塗膜を塗工・印刷しますが、例えば車両内装だとフッ素はコストも高いですし、逆に人が触れるので、傷がつかないように表面硬度が求められるということでアクリル塗膜を塗工しています。
内装にも一部、加工性を重視したいということでポリエステルの塗膜を利用したり・・・。
アルミは鉄板より塗膜の基材への密着性が出にくいので、それぞれの用途に合わせて塗膜を設計しています。さまざまなお客様の要望を聞きつつ作り上げてきました。

【加藤】デザインに関しては、やはりカスタマイズ性というところが魅力です。
いろんな作り方がありますが、DNPではすでに相当な数の柄を持っていますので、そこから提案させていただき、もしそこで「イメージと違う」ということであれば、もちろん開発期間と経費の問題はありますが、一からお客様のご要望に合わせて柄を作る場合もあります。

バリエーション豊富な『アートテック』の柄の一部 (大日本印刷五反田ショールーム)

ー一から作る場合どれくらいの期間が開発にかかるものなのでしょうか?

【加藤】既存の柄であればすぐ対応は可能です。手持ちにないものであれば、2~3か月程度で新規の柄をご用意します。
また、デザインに関しての魅力としてつけ加えると、例えば木目であれば木を表現する、石目であれば石を表現するということはもちろんですが、せっかくアルミを使っているのだから、アルミの素地を活かすことができるというところです。
ですが、あまり印刷が濃すぎると素地が消えてしまうので、柄も活かしながら素地も生かしながら・・・ということをやっています。

ーアルミの素地を活かす、具体的にどういったものでしょうか

【加藤】アルミ自体を罫書いたり、そういうことはしないんですが・・・例えばアルミがもしなかったら金属っぽい表現を印刷でどうするかというと、メタリックインキやパールインキで印刷するという手法になります。ですが実はそれよりも、アルミそのものの素地を生かした方がよっぽど金属感が出るんです。せっかくアルミを使っているんだからということで、アルミそのものの輝度も活かしつつ、実際ではなかなかありえないデザインを印刷するということです。メタル木目のようなハイブリッドな感じで、本物感はあるんですけど、世の中には無いものを表現するのにアルミの素地は適しているのかなと思います。

アルミ素地を活かした木目(左)、通常の木目印刷(右)

アルミ素地を活かした、木目意匠の『アートテック』が使われている東洋大学 赤羽台キャンパスの外観(左)
日のあたり加減によってみえ方が違うことがわかる
実際に使われている『アートテック』のアップ(右)

ー『アートテック』の製造方法を教えてください

【三宅】製造方法としては、一枚一枚印刷するという意味の「枚葉印刷」という方式をとっています。

まずは基材の指定の板厚、サイズのものをアルミの原板メーカーから購入し、それを洗浄します。その後、上の塗膜と密着させるための接着剤の役目をする、プライマーと呼ばれる層を塗工します。
その塗工の仕方ですが、普通、接着剤は濡れているうちに接着した方がいいように思われるかもしれませんが、一回乾燥させて接着させるという塗膜を使っていますので、このプライマーを塗工した後焼き付けます。
そのあとベースの塗色、木目の素地を生かさないタイプであれば薄い茶色とか、ベースコート色を決める塗工を行います。プライマーの層は数ミクロン、ベースの色は数十ミクロンくらいの厚みを塗工します。
ベースの色を決めたところで、一旦焼き付けの工程を挟み、焼き付けて固まったところに、絵柄を印刷します。版の印刷面は金属でできているため、版の金属と基材のアルミとを、直接接触させて印刷してしまうと版の方にダメージがでて、すぐ使えなくなってしまいます。そこで、グラビアオフセット印刷という方式で、ゴム等のシリンダーみたいなものに、一旦、金属の版に乗っているインキを転写させてから、アルミ基材へ印刷します。オフセットさせるというのは、インキを一旦ゴムロールへ転写させてから印刷する、からきていて、この方式をグラビアオフセット印刷と呼んでいます。
印刷工程が終わったら、絵柄の保護と表面のテクスチャーを決めるトップコートをかけます。
その層もだいたい数十ミクロンくらいの厚さになります。そちらは下の絵柄を生かすためにクリア層になっています。その層も塗工して最終の焼き付けをします。当社の製品は基本的に平板で出荷してお客様で加工していただくようになっています。保護するものがないとお客様の加工時に表面が傷ついてしまうので、当社の最終工程で保護フィルムを貼り、お客様の加工の後にフィルムを剥がしていただいています。

ー製造、デザインそれぞれで開発中の苦労など、どんなものがありましたか?

【三宅】製造部門では、『アートテック』は当初、外装用途に適したフッ素のインキなどを設定したんですが、なかなかインキの濃度が出ず、薄い柄しか印刷できず苦労しました。
生産性だけでなく、耐候性や塗膜密着性などの性能を担保できるところの基準をしっかり決めた上で、インキの濃度を限界まで上げることで解決させていきました。そこから活動が増えていきましたね。また、性能を重視したため、当初は表現できる色のバリエーションが少なかったんですが、そこも性能を担保しながら種類を増やしていきました。
いま使用しているパール顔料も、様々なお客様のご要望に合わせるために、たくさんの種類を長い時間をかけて確認し、ラインアップを増やしてきました。

【加藤】デザインの方では、外装に関して、柄の繰り返しが目立たないようにすることに苦労しました。やはり柄を強調すると、遠目で見たときに柄の繰り返しが目立ってしまうことがあります。
ですが、繰り返しを目立たないようにするには柄を抑えればいいのですが、抑えすぎると柄の原稿となっている天然素材がもつ味や素材感が出なくなってしまう。ですから柄癖に注意しつつ、素材の持つ柄や色調の変化とかそういうものも付けつつ・・・というのが難しいですね。

ー繰り返しに見えないようにするというのは、具体的にどういう工夫をしているんでしょうか?

我々は印刷会社ですので、本来はデザインとして柄の原稿となる天然素材の特徴的な要素をいれたいんですが・・・例えば、木目で言うと板目と柾目というのがあって、板目というのはタケノコ状や島状の形状で、柾目というのは直線的な木目の形状の特徴があります。本来柾目のようなデザインにすると、特徴的なものがないので繰り返しが目立たないんですが、板目のタケノコ状や島状の形状の特徴的な部分、そういうのがあると版の円周ごとにその特徴的な部分が出てきてしまって、繰り返しが目立ってしまいます。
ですので、原稿素材の持つ特徴を活かしながら、そういう繰り返しが目立つような特徴的な部分は取りすぎずに修正していく、という作業をしています。

AD-O渋谷道玄坂ビル 外観(左)、外装に使われている木目意匠の『アートテック』(右)
遠目で見た時でも「木目」と分かるように、柄が大きい

ー特にお客様からのレスポンスがうれしかったエピソードなどありますか?

【加藤】実際の現物では安定して作れない、リン酸処理やコールテン鋼などのデザインが本物を忠実に再現していると評価されたときは嬉しかったです。
木目と金属が合わさってるものは、デザインとして割と作りやすいんです。目新しさもあるし本物感もあるし、印刷ならではということも言えます。ですが、このリン酸処理やコールテン鋼等、実際の金属加工材料としてはとても人気が高いんですが、例えばリン酸処理は金属基材の厚みで表面に現れる結晶の大きさが決まってしまうので、薄い基材で大きな結晶を実際の材料で出すのが実は難しいんです。

リン酸処理加工の柄の『アートテック』

なおかつ安定的に使いやすい、デザイン的にバランスの取れた色の濃淡やサイズの結晶を生成する、ということなんですが、そういうふうにならないところがリン酸処理では大変なんです。それを『アートテック』ではデザインとして美しいようにリン酸処理の結晶の絵柄を作っています。もちろんアルミなので軽く、薄く、なおかつデザインとしては本物のリン酸処理に見えるように開発したんですが、我々の作ったこの『アートテック』を設計事務所に持って行ったところ、「このリン酸(処理)はどうやって作ったんですか?」と言われたんです。
『アートテック』はもちろん印刷ですから「これは印刷で作ったんです」ということなのですが、そういった単純な話ではなくて、プロの方々からすると「この薄さで、この大きさの結晶はどうやって作ったのか?」ということなんです。
本物として認識されたことにとても感動しました。意匠的に人気の高い外装材料の中には、色やデザインがコントロールしにくかったりとか柄が安定的でなかったりとか、重いとか厚いとか、現場で歩留まりが悪いとかで、撥ねなくてはいけないものが多いんです。そういった使いづらい外装材料の意匠的な魅力と、アルミの薄くて軽く錆びにくいといった、使いやすさの良いとこ取りをした形で、我々のデザインを皆さんに安定して使っていただけるのは本当にうれしいことです。

ー今後さらに、『アートテック』をどのように販路拡大をしていきたいですか?

【石塚】商業施設やホテル、諸々の大型施設ですね。やはり特に、設計者さんとデザイナーさんが拘って作る、資産価値を上げたいなという建物です。コストダウンして簡単に作って、右も左も同じ建物、ではなく「あ!この建物いいね」と思ってもらえるような建物に、日本だけでなく、世界中でどんどん使っていただきたいです。

すでに海外でも多くの建物に使われている『アートテック』、近年では海外で建築賞も受賞